事業承継で会社より先に不動産を整理する理由――社長個人所有の工場・店舗・事務所をどう扱うか
会社の事業と不動産の所有者が一致しているとは限らない
中小企業の事業承継やM&Aで見落とされやすいのが、事業用不動産の所有関係です。店舗、工場、倉庫、事務所を会社が使用していても、登記上の所有者が創業者やその家族というケースがあります。長年問題なく使用してきたとしても、後継者交代、相続、会社売却が発生すると、会社経営権と不動産所有権が別々に動くことで事業継続上のリスクが表面化します。
M&Aでは「その場所を今後も使えるか」が企業価値に直結する
中小企業庁は事業承継ガイドラインや中小M&Aガイドライン、中小PMIガイドラインを公開し、事業の円滑な引継ぎを支援しています。不動産を個人所有している企業を第三者が買収する場合、買主は会社の株式を取得しても、工場や店舗そのものを取得できないことがあります。その場合、買収後も使用できる長期の賃貸借契約や、不動産を同時に売買する仕組みが必要になります。
承継前に整理する項目
- 土地・建物の登記名義人
- 会社と所有者間の賃貸借契約
- 賃料が実際に支払われているか
- 銀行抵当権や個人保証との関係
- 所有者死亡時の相続人
- M&A時に不動産も売却するか継続賃貸するか
特に創業者が死亡し、不動産を複数の相続人が共有すると、会社が重要な事業拠点を継続利用するための意思決定が複雑になる可能性があります。逆に不動産だけを後継者へ移転すると、贈与税、相続税、不動産取得税、登録免許税など別の税務・費用論点が生じ得るため、単純な名義変更として扱うべきではありません。
会社価値と不動産価値を分けてから組み直す
承継計画では、まず営業事業の価値と不動産の価値を分け、誰が何を引き継ぐべきかを検討します。後継者が事業を継ぎ不動産は創業者側が保有して賃貸する方法もあれば、不動産を会社へ売却・現物出資する方法、M&A時に同時売却する方法など複数の設計があります。
重要なのは税務だけで決めず、事業継続、金融機関、相続、公平性、将来売却まで含めることです。次に確認すべきなのは、会社が使用する全不動産の登記名義と契約関係を一覧化し、経営者が不在になっても利用権が維持できる状態かどうかです。